第2オペ室
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おやすみ あの頃 あの場所 あの歌 06
医師として、それぞれ進む科を決める時期になった。
早くから産科希望と決めていた鴻鳥と違い、四宮はぎりぎりまでどの科に進むかで迷っていた。
四宮の父親は産科医だが、入学した当初は父親と同じ産科医になるつもりはまったくなかった。
それでも最初から産科を希望していた鴻鳥と同じ時間を過ごし、命の誕生に鴻鳥と共に喜び、命を救えなかった哀しみを彼と分かち合ううちに、四宮の考えもすこしづつ変わっていった。
「四宮はどの科にいくつもりだ? 外科か救命って言っていたよな?」
「産科にいくつもりだ」
「え? だって産科医には絶対にならないって…」
「いろんな科を見たうえで決めたんだよ。産科を選択に入れるのも悪くない、って」
さまざまな科を学んだからこそ、産科に進むという考えも出てきた。その決定には鴻鳥の影響もすこしはあったかもしれないのは、四宮も密かに認めていた。
「じゃあさ、また一緒に研修受けられるね」
嬉しそうな鴻鳥の顔。鴻鳥とまた一緒にいられるのは、四宮にとっても同じくらいに嬉しい。
「…お互い、あんまり頼りにならなさそうがな…」
「…四宮、そこは『産科は俺に任せろ!』くらい言ってよ〜」
「…それはサクラが言ってくれよ…」
研修医になり、鴻鳥とは大学からの友人として、また同じ産科医を目指す同僚として過ごした。
病院という現場で、鴻鳥と一緒に多くの事を経験した。
命が産まれる喜びも。
新しい命、一生懸命に生きてきた命を助けられなかった辛い事も。
何があっても、一人でも乗り越えられただろう。
それでも隣に鴻鳥がいてくれて良かったと、何度思ったかもしれない。
神経を張りつめた日々が続き、ようやく鴻鳥と一緒に病院を出る事ができた日。
すでに空は暗く、疲れ切った二人は一台のタクシーを呼び止め、それぞれの家に途中まで一緒に帰る事にした。
車の振動で、張りつめていた緊張が緩んだのかもしれない。気がついたら鴻鳥の肩に寄りかかって寝ていた。
気がついた瞬間、はじかれたように四宮は身体を鴻鳥から話した。
「…サクラ、ごめん!」
慌ただしいスケジュールを想定し念のためにと抑制剤を飲んでいたが、鴻鳥にオメガフェロモンを気付かれなかっただろうか? 四宮は焦るが、鴻鳥は気付いていないようだ。
「おまえの家に着いたら起こすから、もうちょっと寝てていいよ」
四宮と同じように疲労の色を見せつつも、それでも鴻鳥がふわりと笑う。
「…サクラは?」
「僕の家は四宮の家よりも先だから、起きていた方がいいし」
その言葉に甘えて、四宮は再び鴻鳥に寄りかかった。もう目は覚めていたが、それでも四宮は目を閉じる。
(…サクラのこの肌の熱さを、感じ取る事ができるなら)
身体の奥底から沸き上がるこのかすかな衝動は、オメガの発情期が始まったせいか。
普通なら……当たり前の友人同士なら、望むことすら出来ないけれど。
……それでも、鴻鳥がアルファでーーー自分は、オメガだから。
(…俺は、その望みを叶える手段を…持っている…)
鴻鳥を求めるこの暗い望みが、アルファを求めるオメガの浅ましさ故(ゆえ)であってもかまわない。
胸の奥底にその望みを自覚しながら、四宮は浅い眠りについた。
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2018.8.1 UP。
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