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産科医は、さんかい

 人の流れも途切れがちになる時間帯だからか、ナースステーションはのんびりとした雰囲気だった。このまま緊急搬送などがなければ、今日はおだやかななうちに終わるだろう。
「鴻鳥先生、○○さんの無痛分娩の件ですが…」
 麻酔医の船越が来た。持病がある妊婦の無痛分娩予定について産科まで来たのだろう。主治医の見解や容態の確認など必要なやりとりをしながら、鴻鳥と予定を組んでいく。
「サクラ。何もないようだから、俺はもう上がるぞ」
「ああ、お疲れ、四宮。下屋も上がっても大丈夫だから」
「四宮先生、これからデートですか?」
 船越が四宮に声をかける。もっとも今日は鴻鳥の当直なので、四宮のデートはありえないが。
「…違いますから」
 そっけない返事だが、それでもプライベートに関わる質問に四宮がちゃんと返事しただけでも鴻鳥はすごいと思う。突き放すような四宮の態度だが、船越はくじけない。
「あ、そうだ。デートと言えば…」
 思い出したように------実際は思い付いただけだろうが------船越が言う。
「産科医は、さんかいなんですね!」
 いきなり得意げに言われても、鴻鳥には何のことだかわからない。鴻鳥は問うように船越を見た。
「夜の回数に決まっているじゃないですか!」
 ありがたい事にわざわざ説明してくれるが、女性が多いナースステーションだったため、その場の空気が凍り付いた。下屋は気まずそうに視線を明後日の方向に逸らし、四宮はなにも聞かなかったかのように帰って行った。
「…あの…船越先生、女性のいる場所でそのような発言はセクハラになりかねませんので…」
 鴻鳥は苦笑いしながらやんわりとたしなめる。ただ船越はあっけらかんと言うので、性的な話題という感じはあまりしない。人徳なのか、それともそれ以外の何かか。突き詰めて考えない方が、船越のためだろう。
「下手な鉄砲じゃないんだし、回数をどうこう言われてもさー」
 とは小松。状況としてはやや船越にとって不利なようだ。船越が有利だった事があるのか鴻鳥にはわからないが。
「おい船越先生、こんなところにいたのかよ。霧原先生が探してたぞ」
 通りかかった加瀬が用事があると言って船越を引っ張っていった。振り返った加瀬の目が笑っていたのは、鴻鳥の気のせいだろう……たぶん。
「で、どうなの?」
 船越が去った後に、小松が鴻鳥を見上げながら言う。
「何がですか?」
「回数」
「……小松さん、セクハラですってば」
 鴻鳥は笑ってごまかした。



2015.12.18 UP。

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