第2オペ室
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Blu-ray発売に寄せて
「ブルーレイ発売されたましたねー」
「やっぱりA野さんは格好良かった」
「わたしはH野さんのファンだけど、いままでにない演技が見られて良かったです」
会話だけを聞けばここが病院内のナースステーションであると言う事も忘れそうになるやりとりだ。
産婦人科を舞台とするドラマがテレビで放映された。丁寧な作りで医療関係者からの評判も良く、また人気俳優が演じたという事もあり、ここペルソナの産科メンバー(主に女性陣)もドラマを楽しみに見ていた。
そのドラマも好評の内に終わり、先日DVDとブルーレイが発売された。特典映像として俳優たちへのインタビューや、医療関係者を招いた試写会の様子が収録されていた。
「医療関係者を招いた完成試写会、やっぱり行きたかったです」
「あのナースステーション、本物の病院のナースステーションが撮影に使われたんでしょ?」
「完成していない病院で、まだ患者を受け入れていないから撮影できたらしいですけどね」
「じゃ、ここは無理かー。ここがロケに使われたらA野さんやH野さんを間近で見られたかもしれなかったんだけど」
それぞれ好きな俳優や、ロケ地に選ばれたかったという話題で盛り上がる。こんな時に注意しそうな四宮もこの時は口を挟む事もなく、パソコンに向かい自分の仕事を黙々とこなしていた。
「僕、Y田羊のファンなんですけど、ここがロケ地になったら彼女を生で見られたかもしれなかったんですよね」
「あらゴロー君、こんな美人が身近にいるのに不満なの?」
小松が茶化して言うが、
「タイプが違いますよ、小松さん」
と赤西なりにフォローを入れた。
「でもあのドラマの主人公、産科医でもありピアニストでもあるっていう設定じゃないですか。そこだけはやっぱりフィクションというか、あり得ないですよねー」
ごく真っ当と思える意見を赤西が言うと、鴻鳥と、それから一人静かにパソコンに向かっていた四宮が咽せた。
「それはどうかなゴローちゃん。そんな産科医、案外といたりするかもよー」
まさかぁ、と笑う赤西の声と、こちらをうかがう小松の視線を感じながら、鴻鳥は明後日の方角に視線を向けた。
スタッフも出払い、鴻鳥と四宮しかいない控え室。二人はそれぞれ遅くなった昼食を---鴻鳥はカップ焼きそば、四宮はジャムパンと牛乳---を食べていた。
「あのドラマのDVDかブルーレイ、お前は買ったか?」
珍しく四宮から先程の女性陣と同じ話題を言ってきた。産科医としてあのドラマが気になっていたのだろう。
「家でも録画していたんだけどね。売り上げが良かったら2期があるかもしれないと思って買っちゃった」
「俺はネット通販で買ったが、放送局の通販で買うとついてくるオリジナルストラップが欲しかったんだけどな」
四宮が言っているのは、主人公をデフォルメした人形が新生児を背負っている形状のストラップの事だろう。放送局から直接買うと特典としてついてくるのを鴻鳥は販売後に知った。そういえば四宮は可愛い系……というか、ファンシーっぽい小物が好きなんだよな、と鴻鳥は思い出した。
「僕もあれ欲しかったよ。でも別のところで予約した後だったからさー」
「だろ? 早く知らせてくれ、って思ったがな」
四宮はストラップが手に入らなかった事をかなり残念に思っているらしい。
「でもあのストラップ、新生児を背負っていると産科医じゃなくて新生児科医って感じになるな。出生したら新生児は俺たち産科の手を離れるわけだし」
「そうなるとあのストラップは白川先生っぽいよね」
「……背負い方がまずくて、今橋先生に注意されそうだけどな」
「確かに」
四宮の意外な冗談に鴻鳥が笑う。
珍しく今日の四宮はよく喋った。ドラマに関して感想などをいろいろ言いたいのだろう。四宮がドラマを見て感じた事、俳優に対する感想などを聞くのも鴻鳥にとっては楽しかった。
「俺は俳優はあまり詳しくないが、同僚役の俳優は女性ファンが多いらしいな」
主役は幅広い演技が評判の俳優が演じていて、同僚役は歌手や俳優、文筆活動もしているという事で女性や若いファンが多いらしい。二人の外見も主演俳優は長身で穏やかな雰囲気で、同僚役はやや小柄でクールな印象と対照的だったのが女性陣には好評だった---とは、先程の女性陣の話題から仕入れた知識だ。
「歌手としての彼しか僕は知らないけど、いろんな役を演じた俳優らしいね。あの役、ちょっと取っつきにくい感じの役だったけど、そこが良いって好評だったらしいよ」
「……何がファンにとって良いのかよくわからんな……」
「でもあの役柄、ちょっと四宮に似ている」
「……取っつきにくいところが、か?」
「……可愛いところが」
鴻鳥の言葉に、四宮が咽せた。
「……俺は彼と違って身体もでかいし、笑った顔も可愛くない」
「僕にとっては四宮の背の高いところも、めったに笑ってくれないところも、たま〜に笑ってくれるところも全部可愛い」
「……お前、やっぱり馬鹿だろう……」
口ではそう言っても、照れているのか四宮の顔はやや赤い。
「なぁ四宮。今日はお前の誕生日じゃないし、ケーキも用意できでいないけど……」
鴻鳥は立ち上がると四宮の傍らに立ち、片膝をついて四宮の手を取る。
「……これからも、僕と一緒にいてください」
特典映像にてドラマの原作者が撮影現場に訪れる場面があり、その日が原作者の誕生日だったので主演の俳優が片膝をついてケーキを渡した場面を鴻鳥は再現したのだろう。
「特典映像で原作者が撮影現場に来た時、主役がこうやって誕生日ケーキ渡してたよな。あれ見た時、四宮にやってみたいな、って思って」
「……サクラ」
「四宮の誕生日はまだ先だから、覚えている内にやりたかったんだ」
「……馬鹿サクラ……場所を考えろ……」
「そうだな、ごめん」
立ち上がろうとした鴻鳥の頭に四宮は手を乗せ、顔を赤くしながら鴻鳥のやや長めの髪に指を絡ませた。
2017.07.04 UP。
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