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Dear Father

「今橋先生のおかげで助かりました」
普段と同じように、穏やかな顔で鴻鳥が礼を述べる。今橋も大事に至らなくて良かったです、と、少々照れくさそうに頭に手をやる。
産科医と新生児科医の間では日常的なやりとりだ。鴻鳥なら救命の加瀬に対しても、まったく同じ態度を取るだろう。
…四宮は、そう思いたい。



「…今橋先生と嬉しそうに話すよな…」
四宮がオンコールだが、それでも鴻鳥と一緒に病院を後にする事が出来たある日。
街の鮮やかなイルミネーションに楽しげに視線を向ける鴻鳥が、四宮のつぶやきに足を止めた。
「…やっぱり四宮は鋭いな…」
何故か鴻鳥は嬉しそうに笑う。自分は、気づかないふりをしていればよかった事を口にしてしまったのか。
「笑わないか? …いや、笑ってもいいけどさ」
鴻鳥が四宮の隣に立つ。楽しげな表情のまま、視線を遠くに向けたままだ。
「今橋先生と一緒にいるとさ…父親のイメージって、こういう人なのかな、って思うんだ」
「…サクラ…」
鴻鳥が実の父親も母親も知らない事は、四宮も知っている。
僕には母親が三人いるから、と以前言われたが、父親について鴻鳥が何か言ったかどうか、四宮には思い出せない。
「今橋先生は実際に父親っていうか、今橋先生のお子さんたちにとってお父さんだし、産科医(ギネ)をやっていると世の中にはいろんな父親がいるのはわかっているけどさ…それでも…ちょっとだけ…空想っていうか…父親って、きっとこんな人なんだろうな、って想像するんだ…」
「…サクラ…」
言葉に詰まった四宮の足が止まる。絶句した四宮を、鴻鳥は誤解したらしい。
「…やっぱりおかしいよな…自分でもわかっているけどさ…四宮だから言ったんだからな…誰にも言わないでくれよ?」
「…サクラ…ごめん…」
「…四宮?」
「…ごめん」
疑ってごめんなさい。
気付かないで、ごめんなさい。
……おまえを父親にしてやれなくて、ごめんなさい。
「し、四宮? …えーと…と、とりあえずどこかの店に入って飯でも食わないか?」
うろたえつつ自分の手を引く鴻鳥の手を、四宮は強く握る事しか出来なかった。


2015.12.18 UP。

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