第2オペ室
白石幸之助が書いた小説やイラストを置いてあります。コウノドリ・ブラックジャックなど。
砂の匂いと
空港の到着ロビーには様々な人間がいた。
辰巳と同じ色の肌と髪の人間。淡い色彩の瞳と髪の人間。色の濃い髪と肌の人間。それから…。
漆黒の髪と、色彩を失った白い髪。整った顔に走る大きな傷と、その顔を覆う生来とは異なる濃い色の皮膚。
「ブラックジャック!」
辰巳が呼びかけると、彼の顔が一瞬明るくなった。見慣れた黒衣が翻(ひるがえ)る。出国を見送った時は暑い季節だったので彼の黒衣は奇異の目で見られたが、いまは辰巳も彼と同じようなコートを身に纏っていた。
「わざわざ迎えに来なくても良かったんだぞ」
「僕はちょうど今日、休みだったし」
彼の帰国に合わせて、何日も前から仕事を調整していた事は内緒だが。
「…お帰り」
「…ただいま」
辰巳の言葉に、彼が照れくさそうに笑う。こうして彼を身近に感じられるのは何ヶ月ぶりだろう。
「…無事で、本当に良かった…」
辰巳は彼の肩を軽く抱き寄せた。……これくらいなら、久しぶりに再会した友人の挨拶として見られるだろう。
「…砂の…匂いがするね…」
乾いた風と、砂の匂い。……それから、硝煙の匂い。
テレビや新聞で内戦が伝えられた国。仕事でその国に行くと彼が言った時には、言葉にこそしなかったが不安しかなかった。祈るような気持ちで海外のニュースを毎日チェックしていたのを思い出す。
それでも、こうして彼が目の前にいる。辰巳にはそれで十分だった。
抱き寄せられた彼もまた挨拶代わりに顔を辰巳に寄せ、そして……甘えるように囁いた。
「…おまえさんが…この匂いを消してくれるんだろう…?」
恋人同士だから当たり前の囁き(…だと思う…)だが、不意に言われたので辰巳は返す言葉に迷った。
「…ええと…僕は汗臭い…と思うから、その…」
…我ながら不味すぎる返答だが、彼はクスクスと笑っている。
「…あのー…ブラックジャック…というか、間さん?」
「…笑って悪かった。やっぱりおまえさんだなぁ、と思ってな」
目を細めて笑う彼は、辰巳のよく知る彼だ。けれど。
内戦の国で、彼は何を見てきたのだろう。この国しか知らない辰巳には想像すらできないけれど。
それでも辰巳の前で、彼はこうして笑ってくれる。
「早く帰ろう。ピノコちゃんはね、準備に手間取って空港まで来れなかったから、君の帰りを待っているよ」
彼を待つ少女の元に帰るため、辰巳は彼と共に自分の車へと向かった。
☆ ☆ ☆
あとがきとして
Twitterで見かけた辰黒のイラストが素敵だったので、自己満足で小説を書いてみました。
イラストを描かれた方の意図とは違う方向になっただろうけど、それでも辰黒小説を書くのは楽しかったです。
2015.08.09 UP。
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おしらせ
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「辰巳氏の優雅でシュールなコミックマーケットレポ」をアップ。
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「安楽死医、夏コミに来たる」をアップ。
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サイト大改装。
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