第2オペ室
白石幸之助が書いた小説やイラストを置いてあります。コウノドリ・ブラックジャックなど。
四季 春
桜の下には…
春の日差しを受けて桜の大木が四方へと枝をのばし、見事な花を咲き誇らせている。時折吹く風に薄紅の花びらが舞い、そのつどに花びらの他は何も見えなくなる。
大木の根元には、男が一人座っていた。薄紅の花びらが彼の黒いコートに舞い落ちても、ふり払おうともしない。眠っているのだろうか、そうして目を閉じていると、いつも彼が見せる鋭さは消えて、意外に幼く見える顔が、彼の半分だけ白い髪からのぞく。
誰かの手が、彼の色の異なる側の皮膚に触れた。彼は静かに目を開けた。混血児と思われる少年が、彼の顔をのぞきこんでいる。
「…よかった…ちゃんとくっついているや……」
少年ははにかんだ笑顔を見せた。彼----------ブラックジャックにとって、それは忘れることのできない笑顔だった。
「君のくれた皮膚だからな。くっつくのは当たり前じゃないか、タカシ」
「どうして?」
「友達の皮膚だからさ」
タカシはまた笑った。ブラックジャックもまた一緒に笑った。
----------吹く風に薄紅の花びらが舞い----------
「君はあの時、まだほんの子供だった。誰もが助からないと思った。だか君は生き延び、そして全快した…」
一人の老人がブラックジャックを見下ろしていた。彼を見つめる老人の顔は鋭く、厳しくもあるが、どこか優しい。
「あなたのおかげです、本間先生。あなたのおかげで、私はこうして生きることができたのですから」
「儂は君の手伝いを、ほんの少ししただけじゃよ」
「それでも死ぬかもしれない命を助ける事は、とても立派な事です」
「君は本当にそう思うのかね?」
「思います。そう思えるからこそ、私はこうして----------」
----------吹く風に薄紅の花びらが舞い----------
「…私の皮膚…使ってくださいませんでしたのね…ブラックジャック先生…」
女が一人立っていた。彼女の兄によく似ている面影を持つ女が。
「これは私の大事な皮膚だから、取るわけにはいかないのでね」
「義理堅いのですね、先生。でも、先生のそんな義理堅いところも好きですわ」
女は笑った。この言葉になんと答えればいいものかと、彼は少し悩んだ。
----------吹く風に薄紅の花びらが舞い----------
「先生こんなところで寝たや、風邪ひいちゃうやないのよさ! お花見もいいけろ、奥たんの迷惑も考えてほちいのよさ!」
高く舌足らずの声。まだ幼い少女が、彼の身体を揺さぶっている。
「…夢を…見ていたんだよ、ピノコ…」
「ろんな夢?」
「…そうだな…」
どこから話し始めようかと、彼は考え込んだ。
2004.05.05 UP。
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