第2オペ室
白石幸之助が書いた小説やイラストを置いてあります。コウノドリ・ブラックジャックなど。
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眠りの前に聞いた言葉は
腕に何かが触れた気配がして目が覚めた。カーテンの隙間から見える空は暗く、夜が明けるまでまだ時間がありそうだ。
感じた気配の正体を確かめようと辰巳は自分の腕を見た。隣の布団で眠っていたはずの間が、いつのまにか辰巳の腕を抱きしめるようにして眠っている。普段校内で見る顔とは違う、おだやかな微笑をうかべた彼の寝顔が、辰巳のすぐ隣にあった。
(…動けない…よなぁ…)
この腕をふりほどくのはたやすい。しかしその行為は、いま彼が見ている夢を壊しそうな気がする。どんな夢なのか辰巳には知りようもないが、出来るならば彼にそのまま夢を見させたかった。
このまま目を閉じれば、自分は再び眠りにつけるだろう。そう考えて暗闇の中で目を閉じた辰巳は、間のかすかな声を聞いた。
「…まく…べ…」
辰巳が知らない名前。
辰巳が存在しない、彼の夢。
その夢を壊すには、この腕をふりほどけばいい。
(………)
それでも辰巳は、今の彼の夢を…おだやかな微笑を浮かべながら見ている彼の夢を
壊したくなかった。
「…おやすみ」
誰に聞かせるでもなく一人呟くと、辰巳はそのまま眠りについた。
今度は物音で目が覚めた。開かれたカーテンから差し込む朝の光がまぶしい。
「起きたか、辰巳」
間は先に起きていたらしい。テーブルにはすでに間が作ったらしい朝食の支度が出来ている。
「勝手に作らせてもらったからな。苦労して仕上げたレポート提出に遅刻はしたくないからな」
そうだね、と同意しつつ、辰巳はテーブルについた。
「昨日…寝づらくなかったか?」
「どうして?」
「どうして、って…」
辰巳の返答に間が口ごもる。
先に目を覚ました彼は、自分が昨夜どのようにして眠っていたのかに気付いたのかもしれない。彼の性格ならば、いまは申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいだろう。
「僕、自分がいびきをかくほうだから、人のいびきは気にならないよ。実際、夜は目を覚まさなかったし」
彼が昨夜どんな夢を見ていたのか…眠りの中でどんな言葉をつぶやいたのかを知っているのは、自分だけでいい。
「…そう…か」
辰巳の言葉に間の表情が和らいだ。辰巳にはそれで…それだけで充分だった。
☆ ☆ ☆
あとがきとして
ジャストミート中島さんから回していただきました「お絵描きバトン」のバージョン違い(?)の「字書きバトン」に回答する形の小説。
お題は
「BJ で 寝顔」
だったのですが、よく考えたらBJではなくて「学生時代の間君の寝顔」になっていますね…。
2008.9.19 UP。
↓何か一言ありましたらどうぞ。
おしらせ
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「辰巳氏の優雅でシュールなコミックマーケットレポ」をアップ。
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「安楽死医、夏コミに来たる」をアップ。
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サイト大改装。
- 以前の更新に関しては更新履歴参照。
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