妄想として。バレンタインネタもどき。
(これを「バレンタインネタです!」とはさすがに言えない…)
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世の中がどれだけバレンタインと騒ごうと、自分にはあまり関係ない…ハズだった。
病院を後にしたのは日も落ちてかなり経ってから。ここしばらく緊急搬送や妊婦の容態急変などで、勤務時間が終わったらまっすぐ家に帰りとりあえずでも身体を休める、という日が続いていた。
そんな慌ただしい状況がようやく落ち着いたのが、今日2月14日。
病院では職場の恒例行事として鴻鳥も四宮も女性スタッフからチョコを貰ったのだが。
(…やっぱり…サクラに何かあげたかったな…)
子供の頃のままごとの延長のようなやりとりや、それなりの年齢になって貰うチョコも心のどこかに気恥ずかしさと嬉しさを感じていたが、自分が誰かに…それも同性にチョコを贈りたいと考えるなんて、想像した事もなかった。
(小松さんたちからチョコ貰った時、あいつ嬉しそうに受け取っていたが、甘い物は大好き、というほどでもなかったっけ…それにBabyとしてプレゼントも貰っていたし…いまさら俺が渡すのも…)
「…四宮?」
いきなり鴻鳥に声をかけられた。病院に一番近く、関係者もよく買い物にくるコンビニ前で考え込む自分を鴻鳥が見つけたらしい。
「何か買うものでもあるのか、四宮?」
「いや、サクラ、その…」
「四宮?」
「ええと…サクラ、ごめん」
「…し、四宮?」
「…バレンタイン…用意できなくてな…」
自分の性格だとごまかしきれないだろうから、ここは正直に言った方が良いだろう。
「…俺としてはおまえにプレゼントを贈りたかったが…何を渡せば良いのかわからなかった…忙しかった、というのは言い訳にしかならないが…」
言っているうちになんだか情けなくなってきた。これで自分は鴻鳥の恋人だと思えるのなら、それは自惚れなのだと四宮は思う。
「なあ、四宮、これから僕の家に来ないか?」
「…サクラ?」
「この前のライブの新曲、お前に聞いてほしいし」
「だけど俺は何も用意できていないが…」
「僕だって何も用意できなかったから、せめてピアノの曲をプレゼントさせてよ。それに、さ…」
鴻鳥が四宮の手を引いて歩き出す。歩きながら、夜で周囲に人がいないのを良い事に鴻鳥は四宮にだけ聞こえるような声で言った。
「お前自身を僕にプレゼントしてよ、四宮」
鴻鳥の言葉に顔を火照らせながら、四宮は鴻鳥に手を引かれるままに歩いた。
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この先のサクラ先生の家でのシーンは…みなさまの脳内にて〜〜!!!