ネタまとめとして。
ようやっとこさサクラ君登場!
…なんだけど、ちょっと物足りないというかもうちょっとあれこれ書き足したいというか…。
サクラ君、医学生としても優秀だし、ピアノの腕前もかなりのものだけど、アルファとしてはか〜な〜り鈍い部類に入る…。
(加瀬先生なら四宮君が身構えている時点で、四宮君がオメガだと気付くぞ)
まだまとまっていない文章ですが、それでも自分を追い詰めるためにアップしてみる。
☆ ☆ ☆ ☆
「四宮ー」
多くの学生が行き交う大学の構内で、誰かが四宮の名を呼ぶ。四宮も足を止めて声の主が追いつくのを待ち、追いついた彼と二人で並んで歩いた。
声の主は四宮よりもわずかに背が高い。四宮と話しながら、時折くせのある髪をかきあげる。
鴻鳥サクラ
同じ大学に通うアルファだ。鴻鳥は自分がアルファだと公言しているわけではないので、オメガである四宮以外には、鴻鳥がアルファである事に気付いている者はおそらくいないだろう。
会ったのは入学したばかりの頃。
「ここ、空いてる?」
最初の講義が始まる直前に、すでに席を取っていた四宮に誰かが声をかけた。
視線を向けると、穏やかな顔が四宮に問いかけている。オメガとしての嗅覚が、相手が何者であるかを四宮に告げた。
(…アルファ、かよ…)
断る理由もない。四宮がどうぞ、と短く答えると、相手は礼を言ってから隣に座った。
オメガであることを自覚して以来、こんな至近距離でアルファと近づいた事がなかったので、緊張で身体がこわばる。まだ発情期が始まる時期ではないので、オメガフェロモンは出ていないはずだ。
それでももし、自分の気付かないあいだに発情期が始まっていたら?
もしも、自分が不注意で何かを見落としていたら?
もしも、隣に座る男がアルファとして、自分が発するごく微量のオメガフェロモンを嗅ぎ取ったら?
もしも…。
「…具合…悪いのか?」
講義が始まってしばらくして、隣の男が周囲に聞こえない小さな声で四宮に言った。緊張のあまり四宮の顔色がよほど悪くなっていたらしい。
「…大丈夫…だから…」
四宮は平静を装って答えた。この様子だと相手は自分がオメガだと気付いていない。そう思うと、少しずつ落ち着きを取り戻せた。
意識を講義に集中させようとしたが、しばらくして隣の男の指がノートの端でかすかにリズムを刻んでいるのに気付いた。不思議に思った四宮が見ていたら、相手も四宮が見ているのに気付いた。
「ごめん。目障りだよな」
照れくさそうに笑いながら、四宮にだけ聞こえるような小さな声で男が言う。
「…いや、こっちが勝手に気にしただけだから」
四宮も同じように小さな声で答える。
講義終了後。
「…あのさ」
意を決して、四宮は相手に話しかける。
「学食で一緒に飯でも食わないか…?」
同じ新入生同士、決してこの誘いは不自然なものではないはずだ。
相手は自分はオメガだと気付いただろうか。四宮は気付いていない可能性に賭けた。
「…そうだな」
相手も嬉しそうに応じる。
なぜ相手と一緒にいたいと思ったのだろう? と四宮は自問した
新入生同士、親しくなりたかったから。ふと笑う顔に、自分も同じように笑いたくなるから。自分をオメガだと気付いていないから。それらしい理由を考えて納得させようとした……オメガとしてアルファである相手に惹かれているのではないと思いたかった。
鴻鳥サクラ、と相手は名乗った。
「『コウノトリ サクラ』? 本名か?」
聞き慣れない名字と名前に、四宮が驚く。
「本名だってば。芸名とかで大学には入学できないよー」
学生証見せようか? と面白そうに笑う。
鴻鳥って長くて言いづらくないか? 医者になったら鴻鳥先生って呼ばれるの、長くて言いづらくないか?
「でもさ、鴻鳥、って産科医にはぴったりの名字じゃないか?」
「…産科希望なのか?」
四宮の父親と、同じだ。
「そのために医学部(ここ)に入ったんだし。四宮は? これから決めるのか?」
「…まあ、な」
自分は父親と同じ道には進まないつもりだが。
「そっかぁ…お互い希望の科に行けるといいな」
その時以来、四宮は鴻鳥と一緒に行動する事が多くなった。
鴻鳥と一緒にいるときは、四宮は普通の友人の関係でいたかった。自分がオメガで、鴻鳥がアルファという事を忘れたかった。そのための抑制剤は決して忘れる事なく飲んでいたが。
次の講義が大変な事など学生らしい話題のあとに、鴻鳥がふと話題に挙げる。
「そういえば○○がさ、飲み会に四宮が来ないの残念がってたって。避けられてる? って気にしていたらしいよ」
鴻鳥が話題にした○○も、公言していないものの鴻鳥と同じアルファだ。
友人も多く、人間として信頼できる人物だろう。四宮に避けられているらしいのを不思議に思いながらも、相性が悪いのかもしれないとそれ以上は接触してこなかった。申し訳ないと思いつつも、深入りしてこない彼の態度が四宮にはありがたかった。
「…スケジュールが合わないだけだ…別に○○の事を嫌っているとか、そーいうのは無いから」
四宮の言葉を聞いた鴻鳥は、何故か嬉しそうな顔をした。