自分で自分を追いつめるためにアップするシリーズ。
今回ちょっと好き嫌いが分かれると思いますので、読んでもいいよ、という方は以下からどうぞ。
そして今回もサクラ先生登場とはなりませんでした…。
(四宮君が通学のために借りた部屋にて
「実家の部屋ほど広くはないが、男子学生が一人で暮らすには十分な広さ」
って考えているところがありますが、
「アナタの実家の部屋が広すぎるんです〜〜!!」
と突っ込んでおきました。
(四宮先生の実家の部屋を描いてくださってありがとうございます鈴ノ木先生!!)
ちなみにオメガフェロモン検出器や抑制剤の説明を書いてしまいましたが、よく考えたら四宮君がオメガ宣告を受けた時にすでに書いているハズなので、このシーンでも書いたらしつこくなるんですよね〜。
本にする時に削る予定。
☆ ☆ ☆ ☆
必要最低限の家具は運び入れたが、まだ生活の匂いのしない部屋。荷物整理をあらかた終えた四宮は、ようやく一息ついた。
一人暮らしのために借りた部屋は大学へも通いやすいし、交通の便も悪くない。実家の部屋ほど広くはないが、男子学生が一人で暮らすには十分な広さだと四宮は思う。
家具など大きな物はすでに決めた位置に置いたので、あとは細かい荷物を整理するだけだ。目当ての段ボールの箱から、手のひらに乗るくらいの半透明のやや太めの筒状の機械…オメガフェロモン検出器とフェロモン抑制剤を取り出す。
この小さな機械に息を吹き込めば、ごく微量なオメガフェロモンでも検出し、発情期の始まりを教えてくれる。それに合わせて抑制剤を飲めば発情期を抑えられ、普通の生活ができる。
最悪の場合に備えて、薬のケースも用意しておく。
アルファの父親が持っていたのと同じ形の、銀色の細い円筒形が細い鎖に繋がれている。アルファが持つケースの中身はオメガフェロモン対策薬で、オメガの自分が持つケースの中身は、緊急抑制剤と、最悪の場合に備えた緊急避妊薬。
通常の抑制剤を欠かさず服用している四宮は、これまでに緊急抑制剤を使った事はない。
(…これからも…使いたくないものだな…)
忌まわしい物には違いない。それでもこれからの学生生活で必要不可欠な物として、すぐに取り出せるように引き出しにしまった。
うつ伏せに組み敷かれ、他人の体の重みを身体全体で感じていた。なま暖かく柔らかなものが、何度も四宮のうなじを這う。
(…うなじを、噛まれる…)
起きあがって相手を撥(は)ね除(の)けたかったが、身体に力が入らない。その間にも相手は嬲(なぶ)るかのように四宮のうなじに舌を這わせた。
動かぬ身体で自分の肌の上を這う相手の唇を感じつつ、四宮は……。
「……っ!」
浅く、荒い呼吸のなか、四宮は苦い思いで目を覚ました。室内はいまだに夜の闇の中にあり、起きる時間まではしばらくあるだろう。
うなじに手をやる。痛みも腫れもなく、誰かがそこに触れた形跡はない。
発情期のオメガがアルファにうなじを噛まれると、その痣は消えずに残る。
手術などで痣を消すことは出来るが、噛まれたオメガは噛んだアルファとともにいることを非常に強く望むようになる…アルファとオメガの番(つがい)の関係だ。オメガが番(つがい)を結べるのはアルファのみで、ベータとは結べない。
一度アルファと番の関係になったオメガは、そのアルファと別れた後に別のアルファやベータと添い遂げる事は出来るが、どうしても最初のアルファを忘れないと言う。
その結びつきは強く、場合によってはオメガに特別な精神的な治療が必要な場合もある。
(…たかが、夢…だ…)
夢のなかで組み伏せられて感じたのは、嫌悪だったのだと思いたかった。
オメガとしてアルファと番(つがい)になるのを自分が望んでいるのだとは考えたくなかった。
部屋の明かりをつけ、机の引き出しを開けて検出器を取り出す。息を吹き込むと、ごく微量のオメガフェロモンを検出した。発情期の始まりだ。
忌々しく思いながら、四宮は引き出しから抑制剤を取り出して飲み込んだ。